ノンアルコールビールはなぜ水っぽい?飲みごたえとの関係を解説

公開: 更新: 執筆・編集: アストローカ創業者

ノンアルコールビールを飲んで、

  • なんだか水っぽい
  • 味が薄い
  • 飲みごたえがない

と感じたことはないでしょうか。


これは、アルコールがないせいなのでしょうか。

結論から言うと、アルコールが少ないことは、水っぽく感じる一因ですが、それだけでは説明できません。


アルコールはビールの厚みや温感、余韻に関わっていますが、「このビールには飲みごたえがある」という感覚には、液体の粘度だけではなく、味や香り、苦味、後味が関わっています。

味・香り・口当たりを含めた、ビールとして口の中で感じる「存在感」が弱い状態。

この記事では、「水っぽい」というのをこのように捉えて、なぜなのかを見ていきます。

「水っぽい」は、粘度が低いという意味だけではない

「水っぽい」と聞くと、水のようにサラサラした液体を想像します。

そのため、水っぽい=粘度が低いと思いたくなります。

しかし、ビールの官能研究を見ると、それほど単純ではありません。


Ivanovaらは、消費者がビールの「ボディ」を何から判断しているのかを調べています。

そこで挙げられたのは、粘度だけではありませんでした。

味や香味、後味、口当たり、アルコールによる温感など、複数の感覚がボディの判断に関わっていました。

つまり、ビールのボディは「液体がどれくらいとろっとしているか」という一つの物性ではなく、味や香味、口当たりなどをまたいだ多次元的な感覚として捉えられています。

これは、「水っぽい」という日常語を考えるうえでも重要です。


たとえば同じくらいサラサラしたアルコール入りの液体でも、

  • 香りがしっかりある
  • 苦味がある
  • 味が口の中に残る

ビールと、

  • 香りが弱い
  • 味も弱い
  • 飲んだ瞬間に消えてしまう

ビールでは、

後者の方を「水っぽい」と感じることがあります。


私は今回の研究を踏まえて、ノンアルコールビールの水っぽさを、「ビールとして口の中で感じる存在感が弱い状態」と捉えます。


これは研究上の正式な官能用語でも、「水っぽさ」の正式な定義でもありません。

ビールのボディについて示されている複数の知見を、日常語の「水っぽい」という感覚と結びつけて考えるための、私なりの説明です。

アルコールは、酔わせるだけではなくビールのボディを作っている

では、なぜアルコールが少ないと水っぽく感じやすくなるのでしょうか。

アルコール、正確にはエタノールは、酔いを生むだけの成分ではありません。

ビールを口に入れたときの感覚そのものにも影響しています。

Liuらは、3種類の市販0%ラガーをベースに、それぞれエタノール濃度を0%、0.5%、2.5%、5%へ調整して比較しました。

5%では、

  • ボディの厚み
  • アルコール由来の温感
  • 長く残る余韻

といった感覚が強くなりました。

反対に、低アルコール側では「水っぽい」「軽い」方向に評価されました。

また、エタノール濃度が上がるにつれて、実測された粘度も上昇しました。

別の研究でも、0%と5%のラガーを比較すると、0%ではボディの厚みやアルコール由来の温感などが弱く知覚されています。

つまり、アルコールが少ないこと自体が、ノンアルコールビールを水っぽく感じやすくする一因である。

ここまでは、かなり明確に言えます。

普通のビールからアルコールをなくすということは、「酔わなくなる」だけではありません。

口の中で感じていた厚みや温感、余韻の一部も変わります。

でも、「とろみ」を戻せば解決するわけではない

アルコールをなくすと、物理的な粘度も変わります。

では、その粘度を別の成分で戻せば、飲みごたえも元に戻るのでしょうか。

Michielsらは、アルコールを5%から0%へ下げたときに生じる粘度低下を、デキストリンやアラビノキシランという成分で補えるか調べました。

物理的には、粘度を高めることができます。

ところが、粘度を高めただけでは、人が口の中で感じる厚みは十分には戻りませんでした。

特定の成分を単独で増やして粘度を戻しても、それだけでは「厚みが戻った」と感じなかったのです。

複数の成分を組み合わせると改善しましたが、この結果は、物理的な粘度の回復と、人が感じる口中の厚みが同じものではないことを示しています。


つまり、

「アルコールがない」
↓
「粘度が下がる」
↓
「とろみを付ければ元通り」

という一本道ではありません。

ここで、先ほどのビールのボディが多次元的だという話が、もう一段具体的になります。

味や香りが変わっても、ビールのボディの評価は変わる

Ivanovaらは、アルコール分0.05%のラガーをベースに、

  • エタノール
  • 粘度
  • 苦味
  • ホップ香

をそれぞれ変えて、消費者が感じるビールのボディへの影響を調べました。

結果は興味深いものでした。


粘度やエタノールだけではなく、苦味やホップ香、香味全体の強さや後味を変えることでも、ボディの評価が変化したのです。


つまり私たちは、舌や口で感じる「とろみ」だけを使って、「このビールは厚い、これは薄い」と判断しているわけではありません。

  • 香りがしっかりある
  • 味に強さがある
  • 苦味がある
  • 飲み込んだ後にも余韻が残る

こうした感覚も、ビールのボディの評価に関わります。


  • アルコール由来の厚みや温感が弱い
  • 香りや味の存在感も弱い
  • 後味も短い

こうした複数の感覚が重なることで、日常語として「薄い」「水っぽい」と表現される、と考えると、今回見てきた研究結果を整合的に説明できます。

ただし、ビールのボディに関する研究が、そのまま「水っぽさ」の正式な定義を示したという意味ではありません。


すべてのノンアルコールビールが、同じ理由で水っぽくなるわけではない

ここで重要なのが製法です。

ノンアルコールビールは、すべて同じ方法で作られているわけではありません。

そして製法が違えば、現れる官能上の特徴も変わります。


ノンアルコールビールの製法については、こちらの記事にて詳しく解説しています。

脱アルコール製法は「薄い」側へ振れることがある

脱アルコール製法では、まず発酵させてビールを作り、その後でエタノールを取り除きます。

このとき失われるのは、アルコール由来のボディだけとは限りません。

逆浸透膜を使ってビールを約5%から約0.5%まで脱アルした研究では、

  • 果実様・エステル様の香味
  • 麦芽由来の香味
  • 甘味
  • ボディ

などが低下しました。

一部の揮発性成分も減っています。

つまり脱アルでは、エタノールそのものによる厚みを失うことに加えて、製法によっては香りや味の存在感まで弱くなり、「薄い」方向へ振れることがあります。

「普通のビールと同じように作って、最後にアルコールだけを抜けば一番おいしい」と単純には言えない理由の一つです。


脱アルコール製法については、下記の記事にて詳しく解説しています。

アルコール抑制発酵では、逆方向の特徴が現れることもある

一方、発酵そのものを制限してアルコール生成量を抑える方法では、物理的脱アルとは違う官能特性が現れることがあります。

Rettbergらが市販のピルスナー型ノンアルコールビール19製品を比較した研究では、この市販品比較において、物理的脱アル製品群は薄く、味・香りの強度も低い方向に評価されました。

一方、この研究のアルコール抑制発酵の製品群では、厚い、甘い、麦汁様という方向に評価されています。

アルコール抑制発酵では残留エキスや糖が多く残る場合があり、甘さとボディの厚みの関係は考えられます。ただし、麦汁様の香味までを残糖だけの直接的な結果として説明することはできません。


ここでわかることは、低アルコールの製品が必ず「薄い」側に集まったわけではないという点です。

アルコールが少ない=必ず水っぽいではありません。

製法によっては、薄さとは違う方向の官能特性が現れます。


アルコール抑制発酵製法については、下記の記事にて詳しく解説しています。

非発酵製法は、そもそも話の出発点が違う

さらに、酵母発酵そのものを行わない非発酵製法もあります。

この場合、「普通のビールを作って、そこからアルコールを失った」わけではありません。

通常のビールでは発酵によって作られる香りや味、口当たりなどを、そもそも別の方法で組み立てる必要があります。

そのため、非発酵製品に対して、「アルコールを抜いたから水っぽい」という説明をそのまま当てはめることはできません。

非発酵製法がどのようにビールらしい味を作るのかは、製法そのものを扱う記事で詳しく説明します。

水っぽさをなくせば、おいしくなるわけでもない

ここまで見ると、「では、とにかくボディを増やせばいい」と思いたくなります。

しかし、ノンアルコールビールの難しさはここにあります。

先ほどの市販品比較では、物理的脱アル製品群が薄い側だった一方、制限発酵系製品群は厚い、甘い、麦汁様という方向に評価されました。


つまり、水っぽさを避けて厚みを増やしても、今度は、「甘い」「麦汁っぽい」という別の違和感が前に出ることがあります。


ノンアルコールビールでは、「薄すぎないこと」と、「甘く、重くなりすぎないこと」を同時に成立させなければなりません。

水っぽさだけを消せば、それでビールとして完成するわけではないのです。

ノンアルコールビールの難しさは、失ったバランスを作り直すこと

ノンアルコールビールが水っぽく感じるのは、単にアルコールがなくなって液体がサラサラになるからではありません。

アルコールは、ビールの厚みや温感、余韻に関わっています。

そして私たちは、味や香り、苦味、後味まで含めてビールのボディを感じています。

そのため、アルコールを減らし、こうした感覚全体の存在感が弱くなると、日常語として「薄い」「水っぽい」と感じやすくなる、と私は捉えています。


一方で、すべてのノンアルコールビールが水っぽいわけでもありません。

市販品比較では、製法によって薄い側だけでなく、厚い、甘い、麦汁様という方向に評価された製品群もありました。

ノンアルコールビールの難しさは、単にアルコールをなくすことではありません。

アルコールが少ない状態で、味、香り、苦味、余韻、口当たりをどう組み直し、ビールとして自然なバランスにするか。

そこに、ノンアルコールビールづくりの難しさがあります。

参考文献

  1. Ivanova N, et al. Consumer understanding of beer and wine body: An exploratory study of an ill-defined concept. Food Quality and Preference. 2022;98:104383.

  2. Ivanova N, et al. The impact of varying key sensory attributes on consumer perception of beer body. Food Quality and Preference. 2023;112:105004.

  3. Liu J, et al. The impact of ethanol on the sensory perception and aroma release of alcohol-free beers. BrewingScience. 2024;77:102–106.

  4. Michiels P, et al. Enhancing the mouthfeel of non-alcoholic beers: The influence of dextrin and arabinoxylan on perceived viscosity and body. Food Hydrocolloids. 2025;159:110642.

  5. Rettberg N, et al. Effect of Production Technique on Pilsner-Style Non-Alcoholic Beer (NAB) Chemistry and Flavor. Beverages. 2022;8(1):4.

  6. Ramsey I, et al. Understanding the lost functionality of ethanol in non-alcoholic beer using sensory evaluation, aroma release and molecular hydrodynamics. Scientific Reports. 2020;10:20855.

  7. Ramsey I, et al. Assessing the sensory and physicochemical impact of reverse osmosis membrane technology to dealcoholize two different beer styles. Food Chemistry: X. 2021;10:100121.

ブログに戻る