日本で「ノンアルコールビール」と聞くと、アサヒ、サントリー、キリン、サッポロなど、大手ビールメーカーの商品を思い浮かべる人が多いと思います。
普通のビールを作る会社が、ノンアルコールの商品も作る。
日本では、それが一般的です。
ところが海外を調べてみると、少し違う世界がありました。
アルコール入りビールを主力にせず、ノンアルコールビールを事業の中心に据える会社が、いくつも生まれています。
しかも、小さなニッチブランドばかりではありません。
米国のAthletic Brewingは、2025年に48万barrelを販売しました。約5,630万L。350ml缶に換算すると、約1億6,100万本です。
「ノンアルだけを作る会社」が、すでにここまで大きくなっている。
では、世界にはどんなノンアルコールビール専業企業があるのでしょうか。
公開されている販売量、売上高、企業価値、流通規模などを調べ、世界最大級と考えられる10社を見ていきます。
※非上場企業が多く、全社が同じ指標を公開しているわけではありません。そのため、本記事は厳密な売上ランキングではありません。比較できる公開情報から、規模の大きい企業・ブランドを選んでいます。
※海外では0.5%未満の商品を「non-alcoholic」「alcohol-free」と呼ぶ市場があります。本記事には0.5%未満の商品を扱う企業も含まれます。日本で一般的な「アルコール分0.00%」とは同じ意味ではありません。
※円換算は2026年8月30日時点の概算です。
世界最大級のノンアルコールビール専業企業10社
| 企業 | 国 | 規模を示す公開情報 | 日本人向けに換算 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Athletic Brewing | 米国 | 2025年48万bbl | 約5,630万L/350ml約1.61億本 | 圧倒的な規模 |
| Lucky Saint | 英国 | 18か月売上£21.7m | 約47億円 | パブ・オンタップ |
| Partake Brewing | カナダ | 2023年年商約$20m | 約32億円 | 低カロリー×クラフト |
| Heaps Normal | 豪州 | 企業価値A$60m超 | 約69億円超 | カルチャー型 |
| Best Day Brewing | 米国 | 2025年44,036bbl | 約517万L/350ml約1,480万本 | 米国クラフト型 |
| BERO | 米国 | 初年度売上約$10m | 約16億円 | プレミアム型 |
| Go Brewing | 米国 | 2025年15,000bbl超 | 176万L超/350ml約500万本超 | 高速成長 |
| Big Drop Brewing | 英国 | 2021年450万pint | 約256万L/350ml約730万本 | 草創期の先駆者 |
| IMPOSSIBREW | 英国 | FY2025売上£3.57m | 約7.7億円 | 機能性 |
| BRULO | 英国 | FY2025純売上£1.6m | 約3.5億円 | クラフトスタイルの多様性 |
数字だけを見ても、かなり幅があります。
そして面白いのは、10社が同じノンアルコールラガーを作って競争しているわけではないことです。
会社ごとに、狙っている市場も、商品も、勝ち方もかなり違います。
Athletic Brewing|ノンアルだけで巨大ブルワリーになった
まず、規模が別格なのが米国のAthletic Brewingです。
2017年創業。
Athletic Brewingは「ノンアル専門ブランドとしては大きい」というレベルではありません。
Brewers Associationが発表した2025年ランキングでは、米国のクラフトブルーイング企業全体で第6位。
アルコール入りビールを作る多数の有名ブルワリーを含めた順位です。全米のブルワリー全体でも15位に入っています。
2025年の販売量は48万barrel。約5,630万L、350ml缶換算で約1億6,100万本です。
さらに米国のノンアルコールビール市場では、データの対象期間やチャネルによって差はあるものの、Athleticの商品群だけでおよそ2割を占めます。2025年第1四半期のデータでは21.7%、2025年1月の小売売上では25.3%に達し、AB InBevやHeinekenを上回りました。
ノンアル専業なのに、米国クラフトビール6位。
そして米国ノンアル市場の約5本に1本を取る。
Athleticだけは、他のノンアル専業企業とは明らかに規模が違います。
もはや「ノンアル業界の中では大きい」という規模ではありません。
普通のクラフトビール業界に混ぜても大型ブルワリーです。
商品もラガーだけではありません。
IPA、Hazy IPA、Golden、Dark、Sourなど、幅広いスタイルを展開しています。
ノンアル専業企業を調べると、まずAthleticだけが一段違う。
現在のクラフトノンアル市場を象徴する存在と言ってよさそうです。
Lucky Saint|英国のパブにノンアルを入れた
英国のLucky Saintは、Athleticとは違う方法で成長しました。
2025年6月までの18か月売上は2,170万ポンド。日本円で約47億円です。
主力はUnfiltered Lager。
現在はHazy IPAやLemon Lagerなどにも広がっています。
Lucky Saintの特徴は、商品数を増やすこと以上に「どこで飲めるか」を広げてきたことにあります。
英国のパブやバーで、普通のビールと同じようにノンアルをタップから注いでもらう。
Athleticがクラフトビールの多様性を広げた会社なら、Lucky Saintはノンアルを飲める場所を広げた会社です。
同じ専業企業でも、勝ち方はすでに違います。
Partake Brewing|低カロリーという強い理由を加えた
カナダ発のPartake Brewingは2017年創業。
2023年には、累計100万ケース超を販売し、年間売上は約2,000万ドルに達していると創業者が話しています。日本円で約32億円です。
Partakeの商品を見ると、IPA、Pale、Hazy IPA、Blonde、Red、Peach Gose。
かなりクラフトビールらしいラインナップです。
一方で、Partakeは低カロリーも強く打ち出しています。
主力IPAは1缶10kcal。
つまり、「ノンアルでもクラフトビールを楽しめる」だけではなく、「かなり低カロリーなクラフトビール」という別の選択理由を作っています。
ノンアル市場では、必ずしも「普通のビールにどれだけ似ているか」だけを競う必要はない。
Partakeを見ると、それがよく分かります。
Heaps Normal|「飲まない」をカルチャーの中に置いた
豪州のHeaps Normalは2020年創業。
2025年初頭には、企業価値が6,000万豪ドル超と報じられています。
約69億円超です。
これは売上高ではなく企業価値なので、他社と直接比較する数字ではありません。
ただ、同社は豪州最大級の独立系ノンアルビールブランドへ成長しています。
商品はQuiet XPA、Another Lager、Half Day Hazy、Third IPA、Stoutなど。
しかしHeaps Normalでユニークなのは、商品構成以上にブランドの作り方です。
- 音楽
- フェス
- スケートボード
- アーティスト
- 地域コミュニティ
「健康のために酒を我慢する人の飲み物」としてノンアルを売るのではなく、普通にカルチャーの中にあるビールブランドとして振る舞っています。
これもまた、Lucky SaintともPartakeとも違う勝ち方です。
Best Day Brewing|商品棚だけ見れば普通のクラフトブルワリー
米国のBest Day Brewingは2022年創業。
Brewers Associationによる2025年販売量は44,036barrelでした。約517万L。350ml缶換算なら、約1,480万本です。
前年比52%増。
Athleticの約1億6,100万本と比べればまだ大きな差がありますが、創業数年のノンアル専業企業が年間1,000万本を超えていると考えれば十分に大きい。
そしてBest Dayの商品構成は、かなり分かりやすいです。
- West Coast IPA
- Hazy IPA
- Kölsch
「ノンアルコールビール」という一つの商品を作るというより、クラフトビールの各スタイルをノンアルで作る。
商品棚だけを見れば、普通の米国クラフトブルワリーに近い会社です。
日本のノンアル売場との違いが、非常に分かりやすく表れています。
BERO|セレブが参入するほど市場が大きくなった
BEROは2024年登場の新興ブランドです。
共同創業者は、Spider-Manで知られる俳優Tom Holland。
発売から最初の1年間で売上は約1,000万ドルに迫りました。約16億円です。
2025年11月時点では、4,000以上の店舗・施設へ展開していました。
商品もGolden Pilsだけではありません。
Hazy IPA、Wheat、West Coast Style IPAまで揃えています。
BEROの意味は、単に「有名俳優がノンアルを作った」ということではありません。
ノンアル市場に、プレミアムデザイン、著名人、ライフスタイルブランドという戦い方が入ってきたことです。
小さなクラフト愛好家だけの市場であれば、このモデルは成立しにくい。
BEROの急成長そのものが、ノンアル市場の広がりを示しています。
Go Brewing|次の大型専業ブルワリーが育っている
米国イリノイ州のGo Brewingは2023年創業。
2025年には15,000barrel超の規模まで成長しました。176万L超。350ml缶換算で約500万本超です。
さらに全米約1万の販売拠点へ商品を展開しています。
Go Brewingの特徴は、急成長している一方で、かなり「ブルワリーらしい」ことです。
自社醸造所とタップルームを持ち、複数のノンアルビールをドラフトで提供する。
新しい商品も次々に作る。
一方で全国流通も伸ばしています。
Athleticという巨大企業が生まれて市場が完成したのではありません。
その後から、次の専業ブルワリーが育っています。
Big Drop Brewing|クラフトノンアルの初期プレイヤー
英国のBig Drop Brewingは2016年創業。今回紹介する企業の中でも古参です。
2021年には年間450万pintを作る計画を公表していました。約256万L。350ml缶換算なら、約730万本です。
※ただし、これは2021年時点の数字です。現在も同じ販売量とは限らないため、最新規模として扱うことはできません。
それでもBig Dropを外しにくいのは、クラフトノンアルの歴史を考えた時の存在感です。
2016年という早い段階から、Pale AleやStoutなどを含むアルコールフリーのクラフトビールを専門に展開していました。
今では海外では珍しくなくなった、「ラガー以外のノンアルを専業企業が作る」という市場を早くから開拓した会社の一つです。
IMPOSSIBREW|競争軸を「味」からさらに広げた
英国のIMPOSSIBREWは2021年創業。
2025年度の売上は357万ポンド。約7.7億円です。
2026年6月時点では累計売上が900万ポンドを超え、顧客数も10万人超。
累計販売数は400万缶を超えています。
IMPOSSIBREWが他社と大きく違うのは、味だけを競争軸にしていないことです。
L-テアニンやアシュワガンダなどを含む独自の「ソーシャルブレンド」を商品に組み合わせ、「機能的アルコールフリービール」として展開しています。
注目したいのは、ノンアル市場では「普通のビールに似ているか」以外の付加価値競争まで始まっているということです。
- 低カロリー
- カルチャー
- プレミアム
- 機能性
このように、市場が細かく分かれ始めています。
BRULO|IPA、NEIPA、Stout、Goseまで全部ノンアル
最後は英国のBRULOです。
2019年創業。
FY2025の純売上は160万ポンド。約3.5億円です。
英国が売上のおよそ半分を占める一方、フランス、ノルウェー、スウェーデン、日本などにも展開しています。
そしてBRULOの商品を見ると、「海外のクラフトノンアル」がどういう世界なのか非常に分かりやすい。
- Lust For Life IPA
- 7 Hop 7 Grain IPA
- King For A Day NEIPA
- Highway To Helles Lager
- Cascadian Tides Stout
- Five Fruit Gose
IPAだけでも複数ある。
ラガーもある。
スタウトもある。
ゴーセもある。
これは、日本の一般的なノンアルコールビール売場とはかなり違う風景です。
BRULOは、完成した通常ビールからアルコールを抜くのではなく、最初からアルコール生成を低く抑える方法で醸造しています。
クラフトビールに存在する多様なスタイルを、そのままノンアルの世界へ持ち込む。
10社目として、今回の記事を象徴する会社かもしれません。
10社の「勝ち方」を並べると、市場の成熟度が見えてくる
ここまで10社を見てきました。
改めて並べると、かなり違います。
- Athletic Brewing:規模
- Lucky Saint:パブ・オンタップ
- Partake Brewing:低カロリー
- Heaps Normal:カルチャー
- Best Day Brewing:クラフトスタイル
- BERO:プレミアム・ライフスタイル
- Go Brewing:高速成長する専業ブルワリー
- Big Drop Brewing:先駆者
- IMPOSSIBREW:機能性
- BRULO:ビアスタイルの多様性
同じノンアルコールビール専業でも、ほとんど同じ戦い方をしていません。
まだ一つの正解しかない市場なら、各社の商品や訴求は似通いやすい。
ところが実際には、
- 本格的なIPAが飲みたい
- パブで一杯飲みたい
- カロリーを抑えたい
- カルチャーとして格好いいブランドがいい
- アルコール以外の付加価値も欲しい
と、異なる需要を取りにいく会社が育っています。
ノンアルコールビールの中に、さらに複数の市場が生まれ始めている。
10社を調べて見えてきたのは、その姿でした。
日本との違いは「誰が作るか」だけではない
日本では、大手ビールメーカーがノンアルコール商品を作る構造が中心です。
これは日本市場の一つの強さでもあります。
大企業が大規模な研究開発、生産、流通を行うことで、0.00%の商品を全国で手軽に買える環境ができました。
ただし、海外の専業企業を見ると、別の進化も起きています。
- IPA
- Hazy IPA
- West Coast IPA
- Wheat
- Kölsch
- Stout
- Gose
「ノンアルコールビール」という一種類の商品があるのではなく、
ノンアルの中から、さらに好きなビールスタイルを選ぶ。
そんな市場が成立し始めています。
そして、それを作っているのが「ノンアルも作るビールメーカー」ではなく、ノンアルを作ること自体を会社の中心に置く企業です。
ノンアルコールビールは「代用品」だけでは説明できなくなっている
- 普通のビールが好きだけれど、今日はアルコールはいらない
- IPAが好きだから、ノンアルでもIPAが飲みたい
- パブには行きたい。でもアルコールは飲みたくない
- 低カロリーの商品を選びたい
- 味以外の付加価値が欲しい
今回調べた10社は、それぞれ違う理由に答えようとしていました。
世界全体のビール市場から見れば、ノンアル専業企業はまだ小さな存在です。
それでも、ノンアルを作るために会社を立ち上げ、その会社が年間数百万本、数千万本、そして1億本以上を売る。
そこまで市場は育っています。
ノンアルコールビールは、単なる「普通のビールを飲めない時の代用品」から、少なくとも一部の国では独立した選択肢の集合体へ変わり始めています。
日本でも同じような市場が育つのか。
海外の専業企業を追っていくと、これからのノンアルコールビール市場が少し見えてきます。
主な出典
本記事は、各社の公式発表、業界団体、企業取材、報道資料など、公開されている情報をもとに作成しています。非上場企業が多く、販売量・売上高などの開示範囲は企業ごとに異なります。
-
Brewers Association, “A Year of Correction for Craft Beer, With Early Signals of Recovery”
2025年の米国クラフトブルワリーランキング。Athletic Brewingがクラフトブルーイング企業全体で6位、全ブルーイング企業で15位であることを確認。 -
Brewers Association, “Green Shoots: Where Craft Beer Goes From Here”
Athletic Brewingの2025年販売量48万barrel、Best Day Brewingの44,036barrelなどを参照。 -
Brewbound, “NBWA/Fintech Q1 2025 Report: Craft’s Long Tail Contracts, Hard Tea and Non-Alc Outpace 2024 Sales”
2025年第1四半期の米国ノンアルコールビール市場において、Athletic Brewingの複数ブランド合計シェアが21.7%だったことを参照。 -
Brewbound, “Athletic Brewing Closes On $50M Equity Financing Round, Led By PE Firm General Atlantic”
2024年のNIQデータにおけるAthletic Brewingの米国ノンアルコールビール市場シェア19%以上、および市場成長への寄与を参照。 -
The Grocer, “Lucky Saint stuck in the red despite soaring sales”
Lucky Saintの2025年6月までの18か月売上高2,170万ポンドを参照。 -
Forbes, “Partake Brewing Grows Nonalcoholic Craft Varieties”
Partake Brewingの年間売上高約2,000万ドル、累計100万ケース超の販売実績を参照。 -
9News Australia, “Heaps Normal made three mates millions by getting in on the ground floor of booming alcohol-free beer trend”
Heaps Normalの企業価値6,000万豪ドル超などを参照。 -
Inc., “Tom Holland’s NA Beer Brand Is Nearing 8 Figures in Annual Revenue Thanks to an Unexpected Strategy”
BEROの発売初年度の売上高が約1,000万ドルに迫ったこと、4,000以上の販売拠点へ展開したことを参照。 -
Go Brewing, Press & Media Kit
Go Brewingの2025年15,000barrel超、全米約1万販売拠点、自社醸造・製造などを参照。 -
Big Drop Brewing / Just Entrepreneurs, “Big Drop Brewing Co ... raises a further £3.5m”
Big Drop Brewingが2021年に年間約450万pint規模を見込んでいたことを参照。 -
IMPOSSIBREW, “IMPOSSIBREW on track to pass £10m trading revenue”
FY2025売上高357万ポンド、累計売上高900万ポンド超、顧客数10万人超などを参照。 -
Just Drinks, “Non-alc beer firm Brulo eyes UK grocery after funding”
BRULOのFY2025純売上160万ポンド、英国と海外市場の構成、ベルギーでの委託醸造などを参照。
商品ラインナップ、アルコール度数、製法、ブランドコンセプトについては、上記に加えて各社公式サイトの最新情報を参照しています。
※barrelからLへの換算は、米国の1 beer barrel=31 US gallons=約117.35Lとして計算しています。350ml缶換算は、販売量(L)÷0.35で算出しています。
※日本円換算は2026年8月30日時点の為替水準をもとにした概算で、企業の会計上の円換算額ではありません。