酒を売る会社は、アルコールのリスクをどう語るのか。大手酒類メーカーと海外ノンアルブランドを調べてみた

公開: 更新: 執筆・編集: アストローカ創業者

酒を売る会社が、「飲みすぎないでください」と発信する。

考えてみれば、少し不思議な構図です。

酒類メーカーは、酒を売って利益を上げる会社です。一方で現在は、「適正飲酒」「責任ある飲酒」「スマートドリンキング」「ノンアル・低アル」といった言葉を使い、アルコール摂取量を抑えるための情報発信にも力を入れています。


では、酒を売る会社は、アルコールの健康リスクをどこまで語っているのでしょうか。

そして、アルコールを売らないノンアルコールビール専業ブランドになると、その語り方は変わるのでしょうか。


日本の大手酒類メーカー4社と、海外の主要なノンアルコールビールブランドを調べました。

※本記事は2026年8月時点で確認できる各社の公式情報、公的機関資料、経営者・担当者へのインタビューをもとにしています。


まず前提として、「飲みすぎだけが問題」とは言い切れない

酒類メーカー各社の発信を見る前に、現在のアルコールをめぐる科学的な前提を確認しておきます。


アルコールによるリスクは疾患によって異なります。

厚生労働省が紹介する研究結果では、高血圧、男性の食道がん、女性の出血性脳卒中など、少量の飲酒でも発症リスクが上昇するとされるものがあります。

がんについては、WHO欧州地域事務局とIARC(国際がん研究機関)が、現在の科学的根拠から「安全といえる飲酒量の閾値は確認できない」としています。


ここで重要なのは、「少し飲んだだけで大きな健康被害が起きる」という話ではありません。

リスクの大きさは飲酒量や疾患によって違います。

ただ、「大量に飲まなければ、アルコールによる健康リスクはない」と単純には整理できなくなっています。

酒類メーカーは、この環境の中で酒を売っています。

では、各社はどう向き合っているのでしょうか。


アサヒ:適量ではなく、「何%を飲むか」まで選ぶ

日本の大手4社の中でも、アルコール摂取量そのものの選択を強く打ち出しているのがアサヒビールです。

アサヒは2020年から「スマートドリンキング」を掲げています。

対象は、酒を飲む人だけではありません。

飲む人、飲まない人、飲める人、飲めない人、今日は飲みたい人、今日はあえて飲まない人。

それぞれの選択を尊重しよう、という考え方です。

さらにアサヒは、0.00%、低アルコール、通常のアルコール飲料まで含めて、「どの程度アルコールを摂るか」を商品として選べるようにしています。

これは従来の、「適量のお酒を飲みましょう」から一歩進んだ考え方です。

「今日はアルコールをどれくらい摂るのか、自分で選びましょう」まで問いを広げています。


一方で、アサヒは酒そのものを否定しているわけではありません。

目指しているのは、アルコールをなくす社会ではなく、「お酒とのいい関係を長く楽しめる社会」です。

つまり、酒文化を残しながら、アルコール摂取量を調整できる選択肢を増やす。これがアサヒの現在地です。


サントリー:酒のリスクだけでなく、酒の価値も残す

サントリーは1986年から、「お酒は、なによりも適量です。」という広告を続けています。

現在も基本思想は大きく変わっていません。

  • 適正飲酒を啓発する。
  • しかし同時に、酒が持つ味、文化、食事との関係、人とのコミュニケーションといった価値も伝える。

その延長線上に、「飲む人も飲まない人も一緒に楽しめる社会」という考え方があります。


近年はノンアルコール飲料への投資も大きく、2025年にはノンアル事業のマーケティング費用として約50億円を投じる方針を発表しました。

興味深いのは、ノンアルを単なる「酒の代用品」として扱っていないことです。

アルコールは入っていなくても、食事や乾杯、グラスを傾ける時間といった酒が担ってきた体験は残せる。

サントリーは、その市場を広げようとしています。


キリン:「お酒のリスク」と「お酒の価値」を両方書く

4社の中で、酒類メーカーが抱えるテーマを最もそのまま言語化しているのがキリンかもしれません。

キリンの「DRINK FOR FUTURE」では、「お酒のリスクとお酒の価値」の両方を伝えると明記しています。

  • 酒には健康上のリスクがある。
  • しかし、酒には文化や味、人とのつながりといった価値もある。

その両方を前提に、アルコールによる害を減らそうという考え方です。

さらに2026年、キリンは筑波大学との共同研究で、飲酒満足度を大きく落とさずに純アルコール摂取量を減らせる飲み方を検討しています。

単純に「飲むな」と言うのではない。

満足感は残したまま、アルコールだけを減らせないか。

これは酒類メーカーらしい問いです。


サッポロ:「適正飲酒」から「自分に合った選択」へ

サッポロビールは長く、「適正飲酒」「責任ある飲酒」を中心に発信してきました。

現在も、節度ある飲み方や休肝日、食事と一緒に飲むことなどを案内しています。

ただし近年は、ここにも変化があります。

2026年の事業方針では「Healthier Choice」を掲げ、「自分にいい乾杯、見つけよう。」という方向性を打ち出しました。

ノンアルコール飲料についても、通常のビールを飲めないときの代用品ではなく、新しい飲用シーンを作る商品として扱おうとしています。

4社とも表現は違いますが、並べると一つの変化が見えてきます。


大手4社とも、「適量」から「選択肢」へ動いている

大まかに整理すると、次のようになります。

企業 特徴的な考え方
アサヒ 0.00%・低アルを含め、アルコール量そのものを選ぶ
サントリー 適正飲酒と酒文化の価値を両立する
キリン 酒のリスクと酒の価値を両方認める
サッポロ 適正飲酒を軸に、自分に合った飲み方へ広げる

4社とも、

「酒をやめましょう」

とは言っていません。


代わりに、「より良い飲み方を選びましょう」と語っています。


これは当然といえば当然です。

酒類メーカーは、酒そのものにも価値があると考えているから酒を作っています。

一方で、アルコールによる害も無視できない。

ここには、どうしても構造的な緊張関係があります。


売れている酒をやめる。「社内では葛藤しかなかった」

この緊張関係をよく示すのが、オリオンビールの事例です。

オリオンビールは2020年、高アルコール商品の販売を終了しました。

対象には、当時売れていた商品も含まれていました。

マーケティング担当者は、この判断について「社内では葛藤しかなかった」と振り返っています。

担当者らはアルコール依存症の治療施設を訪問し、利用者から実際の飲酒状況を聞いたうえで、高アルコール商品から撤退する判断をしました。

売れている。しかし、その商品が望ましくない飲まれ方をする可能性もある。

酒類メーカーがアルコール問題を考えるとき、これはかなり象徴的な場面です。

外から見れば、「酒を売っておいて、飲みすぎるなと言うのは矛盾している」と簡単に言えます。

しかし、中にいる人にとっては、それほど単純ではないのでしょう。


酒類メーカーの「責任ある飲酒」は、偽善なのか

ここで一度、かなり意地悪な問いを立ててみます。


酒を売る会社が、

  • 「適正飲酒をしましょう」
    「飲みすぎないようにしましょう」

と言うのは、売上を守るための方便なのでしょうか。


今回調べた限り、そこまで単純には見えませんでした。

  • ノンアル・低アルの商品を増やす
  • 純アルコール量を表示する
  • 飲酒量を減らす方法を研究する
  • 高アルコール商品から撤退する
  • 「今日は飲まない」という選択肢を広告する

実際に売上構成まで変える取り組みが行われています。


ただし、酒類メーカーである以上、「アルコールをできるだけ摂らないこと」そのものをブランドの最終目的にはしにくい。

ここが重要です。

公衆衛生と酒類メーカーでは、そもそもゴールが完全には一致していません。


公衆衛生は「アルコールそのもの」を見る

WHO欧州地域事務局とIARCは、がんリスクについて情報発信する際、「有害な飲酒」「大量飲酒」「責任ある飲酒」といった表現だけでは、リスクの伝わり方が不十分になる可能性を指摘しています。

がんについては、少量の飲酒でもリスクがゼロになるわけではないためです。

  • 酒類メーカーは、「問題のある飲み方を減らす」と考える。
  • 公衆衛生側は、「アルコール曝露そのものによるリスクも伝える」と考える。

両者が完全には一致しないのは、どちらかが嘘をついているからではありません。

目的が違うのです。

この違いを理解すると、酒類メーカーの言葉の選び方も見えやすくなります。


では、ノンアル専業ブランドは何を語っているのか

ここからが面白いところです。

酒類メーカーには、「アルコールをどう上手に飲むか」という問いがあります。


一方、アルコールを売らないノンアル専業企業なら、「そもそも今日はアルコールが必要なのか」というところから考えられます。

実際、海外の主要ノンアルブランドを見ると、発信する問いが少し変わります。


世界のノンアルコールビール専業メーカーについては、下記の記事にて詳しく解説しています。


Days Brewing:「ビールが欲しい場面」と「アルコールが欲しい場面」は違う

英国のDays Brewing共同創業者Duncan Keithは、非常に象徴的な考え方を語っています。

ビールが欲しい場面はたくさんある。しかし、アルコールが必要な場面はそれよりずっと少ない。

この発想は、ノンアルコールビールという商品の存在理由をよく説明しています。

  • 人と乾杯したい
  • 食事とビールを合わせたい
  • 仕事の後に一杯飲みたい
  • でも、そのすべての場面でエタノールまで必要とは限らない

Daysは、ビールとアルコールを別々に考えています。


Heaps Normal:「anti-alcoholではない」

オーストラリアのHeaps Normalは、さらに分かりやすい立場です。

創業者は、「私たちはanti-alcoholではない」と明言しています。

  • 酒を完全にやめるべきだとも言わない。
  • 飲む量を減らすべきだと説教するわけでもない。
  • 普通の酒を飲む日もあれば、ノンアルを飲む日もある。

その自由度を増やすことを重視しています。


Athletic Brewing:アルコールを減らして、ビールを増やす

米国Athletic Brewingも、ビールとアルコールを分離して考えるブランドです。

共同創業者で醸造家のJohn Walkerは、ビールについて自分が好きだったのは、原料、クラフト、品質、コミュニティといった部分であり、アルコールは必ずしもその中心ではなかったと振り返っています。

別のインタビューでは、「アルコールはずっと減った。でもビールはずっとたくさん飲んでいる」と話しています。

アルコールを減らすことと、ビールを楽しむことは矛盾しない。

むしろ両立できる。

Athletic Brewingが示したのは、その市場です。


Lucky Saint:「アルコールあり/なし」をビールの選択肢にする

英国Lucky Saintの発想も近いものです。

出発点にあるのは、ビールを飲むあらゆる場面で、アルコールあり/なしを選べたらどうだろうという問いです。

これも禁酒運動ではありません。

ビールという飲み物から、アルコールを必須条件ではなくすという考え方です。


意外だったのは、ノンアル専業企業でもアルコールを敵にしていないこと

今回の調査で、個人的に最も興味深かったのはここでした。

ノンアルコールしか売らない会社であれば、「アルコールは身体に悪い。飲まない方がいい」と強く訴えても不思議ではありません。

しかし、主要な海外ブランドを調べると、そうした発信は意外なほど少ない。

頻繁に登場するのは、

  • choice
  • balance
  • moderation
  • occasion
  • drinking culture

といった言葉です。

つまり、酒を飲む人と飲まない人を分断するのではなく、同じ人が場面ごとに両方を選ぶ。

そこに市場を見ています。

ある日は5%のビールを飲む。

別の日には0.0%を飲む。

ノンアルコールビール市場は、「飲酒者」と「非飲酒者」の二つに人間を分ける市場ではないのかもしれません。

むしろ、ビールを飲むことと、アルコールを摂ることを少しずつ切り離していく市場と考えた方が、現在の動きを正確に捉えられそうです。


これは私の個人的な推測ですが、「そもそもビールの味を愛している人」が、ノンアルコールビール専業メーカーを設立することが、酒を敵にしないことの一つの要因ではないかと考えています。

そもそもビールを飲まない人であれば、ノンアルコールビールメーカーを創業しようという発想にはなかなか至りません。

ノンアルコールビールは、「なんか儲かりそう」だけでゼロから参入できるほど、簡単な業界ではありません。


なお、ノンアルコール飲料事業の難しさは、下記の記事にて掲載しています。

▶ノンアルコールのクラフトビールは、なぜ高い?酒税がないのに高価になる理由


酒類メーカーとノンアル専業では、立てる場所が違う

ここまで調べると、日本の大手酒類メーカーと海外ノンアル専業企業には、ある違いが見えてきます。

  • 酒類メーカーは、「酒をどう長く、より良く楽しむか」を考える。
  • ノンアル専業企業は、そこから一歩離れて、「その場面にアルコールは必要なのか」と問いやすい。

これは優劣の話ではありません。

 

扱っている商品が違う以上、企業が社会に投げかけられる問いも違います。

そして興味深いのは、ノンアル専業企業でさえ、酒文化そのものを敵にしているケースはあまり多くないことです。

  • 禁酒か、飲酒か。
  • 健康か、不健康か。

その二択ではなく、

「今日は何を飲むかを、自分で選ぶ」という方向へ市場全体が動いているように見えます。

 

アストローカも、酒やビール文化を否定するために0.00%を作るつもりはありません。

一方で、アルコールによる健康上のリスクまで曖昧にする必要もないと考えています。

ビールを楽しむことと、アルコールを摂ることは、いつもセットである必要があるのか。

この問いに対するASTROCA自身の考えは、下記の記事にて記載しました。

▶ビールは好きだ。でも、アルコールが好きなわけではない。

 


主な参考資料

  • 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」

  • WHO Regional Office for Europe / IARC:Alcohol and cancer risk

  • アサヒビール「スマートドリンキング」関連資料

  • サントリー「適正飲酒」「ドリンク スマイル」関連資料

  • キリンホールディングス「DRINK FOR FUTURE」関連資料

  • サッポロホールディングス「責任ある飲酒」関連資料

  • オリオンビール高アルコール商品撤退に関する担当者取材

  • Days Brewing / Duncan Keithインタビュー

  • Heaps Normal / Andy Millerインタビュー

  • Athletic Brewing / John Walkerインタビュー

  • Lucky Saint 創業ストーリー

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