かつて、日本にノンアルコールビールメディアと輸入ECサイトを行っていた事業がありました。
その名は、Alldropです。
Alldropの公開記録を追うと、ノンアル飲料事業へ参入する前に確認しておくべきことが、かなり具体的に見えてきます。
Alldropは、もともと自分たちのノンアルコールビールを作ろうとしていました。
OEM先を探し、商品化を検討する。
しかし、求める味、海外での開発条件、MOQなどの制約に直面します。
そこで、自社商品を諦めるのではなく、まず海外ですでに完成している商品を輸入し、顧客を作ってからOEMへ戻るという順序に変えました。
ところが、輸入へ進むと今度は、国際物流、輸入手続き、倉庫、配送、コストという別の制約が現れます。
それでもAlldropは商品を市場へ出し、SEOを主要な集客経路として、初回輸入量をほぼ販売するところまで進みました。
ここで重要なのは、「売れるか」と「売れても残る問題」は、別だということです。
商品が本当に売れるか。味が支持されるか。どの販路が機能するか。
これは市場へ出さなければ分かりません。
一方で、MOQ、製造条件、輸送費、重量、在庫、賞味期限、倉庫、配送条件などは、事業を始める前からある程度数字で確認できます。
アストローカは、これから同じ市場へ入ろうとしている側です。
何を仮説検証し、何を事前に計算しておくべきなのか。
この記事では、その視点からAlldropの公開記録を読みます。
最初にあったのは、自分たちのノンアルを作りたいという構想だった
Alldropの出発点は、LANY創業メンバーの断酒経験でした。
LANY共同創業者の市川昌俊氏は、仕事上の目標を達成するまで、創業メンバー3人で約1年間断酒したと振り返っています。
その期間に市販のノンアルコールビールを飲む中で味に満足できず、一方で断酒による仕事上の変化も感じた。
そこから2020年ごろ、「自分たちが飲みたいノンアルコールビールを作りたい」という構想が生まれました。(S1)
その後、2021年にノンアルコールビール専門メディア「Alldrop」を立ち上げます。
市川氏によれば、当初は約1か月で100記事ほどを書いたといいます。
海外のノンアルコールビール、製造方法、市場、ソバーキュリアスなどを調べて記事化する。
目的は、自分たち自身が市場を学ぶことと、将来商品を販売するときの集客基盤を作ることでした。(S1)
商品を完成させてから顧客を探すのではなく、商品開発と並行して顧客との接点を作っていったわけです。
海外商品を約50種類試し、OEMまで進んだ
Alldropは海外のノンアルコールビールを調べるだけでなく、海外メーカーや販売サイトへ連絡し、実際に商品を取り寄せています。
個人輸入では、1本あたりの送料が1,000円を超えることもあったと市川氏は振り返っています。
それでも約50種類を試飲しました。(S1)
海外の商品を飲むことで、自分たちが作りたいノンアルコールビールのイメージが具体的になっていきます。
そしてAlldropは、実際にOEM先を探しました。
ノンアルコールビールのOEM経験を持つ企業を探し、紹介を通じて海外の候補とも話を進め、試飲や条件確認まで行っています。(S1)
しかし、この段階では商品化を見送ります。
理由は一つではありません。
- 求める味の商品に出会えなかったこと
- 海外OEMで細かな味づくりを進めるには現地での開発が必要だったこと
- 当時はコロナ禍で、それが難しかったこと
- MOQ
市川氏は、提示された最低発注数量について、当時のAlldropの集客力では一定期間内に売り切ることが難しい数量だったと振り返っています。(S1)
つまり、作ってくれる先が見つかっても、自分たちが売れる数量と、工場が作れる最小数量が合うとは限らない。
Alldropは、自社商品を市場へ出す前にこの制約へ直面しました。
そこで、先に輸入販売で顧客を作る順序へ変えた
Alldropは、この時点で自社商品構想そのものを捨てたわけではありません。
- まず海外ですでに販売されている質の高いノンアルコールビールを輸入する
- Alldropで販売する
- 顧客を作る
- 安定して売れる状態を作ってから、改めてOEMへ進む
そういう順序に変更しました。(S1)
MOQが現在の販売力に対して大きすぎるなら、先に販売力を作る。
合理的な順序変更です。
しかし、製造を輸入へ置き換えると、今度は別の制約が現れました。
輸入へ進むと、別の問題が現れた
Alldropは2021年ごろから海外ノンアルの輸入販売へ動き始めます。
当初は輸入代行会社の利用を検討しましたが、予算が合わず、中長期的には自分たちでも輸入できる状態を作らなければ採算が合いにくいと判断しています。(S1)
2021年秋には商品を発注し、2022年1月の発売を狙っていました。
しかし、複数の問題が続きます。
- 現地のコロナによる人員不足
- コンテナ不足
- 出航の遅れ
- 食品輸入届
- 書類の修正
- 検査
- 倉庫や配送会社との調整
商品に同梱されていたグッズによって書類をやり直すこともあり、発売は複数回延期されました。
最終的に販売が始まったのは2022年6月です。(S1)
OEMから輸入販売へ方法を変えたことで、味づくりやMOQの問題の一部は回避できました。
その代わり、物流、手続き、コストという別の条件を管理する必要が生まれました。
販売開始前には、LANY自身が「事業としては赤字」と公表していた
2022年4月、LANYはAlldropで海外ノンアルコールビールを輸入販売すると発表しました。
その中で、コロナ禍で輸入費用が非常に高く、現時点では事業として赤字と説明しています。(S2)
そのうえで、まず消費者の反応を確認し、事業として存続できる可能性が見えれば輸入量を増やし、飲食店や小売店への展開、商品ラインナップの拡大を進める方針を示していました。(S2)
つまりこの時点では、収益性が完成していたわけではありません。
まず商品を市場へ出し、本当に需要があるのかを確かめる段階でした。
SEOを使った販売自体には成果があった
そして、Alldropは実際に商品を売りました。
WordPressでメディアを運営し、ShopifyでECを構築。
SEOを主要な集客経路として海外クラフトノンアルを販売します。(S3)
LANYが後に公開した事例によれば、販売開始から約5か月で、初回輸入量をほぼSEO経由で完売したとしています。(S3)
当時の検索順位としてLANYが公表していた例には、
- 「ノンアルコールビールは肝臓に悪い」1位
- 「ノンアルコールビール おすすめ」3位
- 「ノンアルコールビール」10位
などがありました。(S3)
順位自体は当時のものですが、ここで重要なのは、検索から人を集め、海外のノンアルコールビールを購入してもらうところまでつながったことです。
Alldropを「商品が売れなかった事業」と捉えるのは、公開記録と合いません。
「市場へ出さなければ分からないこと」と「先に確認できること」を分ける
ここまでのAlldropの記録を、これから事業へ参入する側から見ると、二種類の問題が混ざっていることに気づきます。
一つは、市場へ出さなければ分からないことです。
- 商品が本当に売れるか
- 味が支持されるか
- どの販路が機能するか
海外のクラフトノンアルを日本で売って、本当に買う人がいるのか。
SEOから飲料が購入されるのか。
これは、実際に市場へ出してみなければ分かりません。
Alldropはそこを試し、少なくとも初回輸入量については実際に販売しました。
もう一つは、事業開始前からある程度数字で確認できる条件です。
- MOQ
- 製造条件
- 輸送費
- 重量
- 在庫
- 賞味期限
- 倉庫
- 配送条件
これらは、商品が売れるかどうかとは別に存在します。
販売量が増えることで一部の条件が改善することはあっても、商品が売れた瞬間に消えるわけではありません。
だから、これから同じ市場へ入る側は、「売れれば後から解決できる問題」と、「売れても残り続ける問題」を分けて考える必要があります。
Alldropの公開記録から私が最も重要だと感じるのは、この区別です。
公開情報上、自社オリジナル商品の発売までは確認できない
Alldropが最初に構想していたのは、自分たちのノンアルコールビールでした。
輸入販売は、まず顧客を作り、その後OEMへ進むための段階として考えられていました。(S1)
Alldropの公式サイトでも、将来構想として、
- OEM醸造
- 自社オリジナル商品の製造販売
を掲げています。(S5)
その後、Alldropは海外商品の輸入販売を続けました。
ただし、公開情報を確認した範囲では、Alldropオリジナルのノンアルコールビールが実際に発売された記録までは確認できませんでした。
2024年にAlldropは終了した
Alldropは2024年4月に販売を停止し、同月末でサービスを終了しました。
一方、LANYの市川氏は後年、会社全体の変化について、創業初期にはAlldropなど複数の事業へ広げていた時期があり、その後、コンサルティングやコンテンツ制作へ「選択と集中」を進めたと振り返っています。(S4)
Alldropが、どこまで収益化していたのかまでは、公開情報では判断できませんでした。
Alldropをのケーススタディを見て
これからノンアル飲料事業へ参入する自分たちは、何を市場で検証し、何を市場へ出る前に数字で確認しておかなければならないのか。
そのモデルケースとしてとても参考になる事例です。
少なくともAlldropのように、OEMや海外商品の輸入を使って小規模にノンアル飲料事業へ参入する場合、
- 作る条件
- 仕入れる条件
- 運ぶ条件
- 売る条件
- そして続ける条件
これらは完全には切り離せません。
商品が売れるかどうかを検証することは必要です。
同時に、商品が売れた後にも残る条件を先に確認しておく必要があります。
「売れるか」と「売れても残る問題」は、別です。
Alldropの公開記録は、その区別を考えるための具体的なケースになっています。
主な参考資料
S1
市川昌俊 / 2022 / 「海外クラフトノンアルコールビールを発売するまでの奮闘記」 / note
S2
株式会社LANY / 2022 / 「海外の本当に美味しい“ノンアルコールビール”を日本に広めたい。」 / LANY
S3
株式会社LANY・竹内渓太 / 2025 / 「小規模SEOプレイヤーが勝つためには『頑張る場所をズラすこと』が重要」 / LANY
S4
株式会社LANY / 2025 / 市川昌俊インタビュー / LANY CULTURE
S5
Alldrop / 「About」 / Alldrop