アストローカは、ノンアルコールクラフトビールのメーカーです。
創業の参考にするべく、日本にどんな先駆者がいるのか、調べてみました。
私たちより前に、「もっと面白いノンアルを作れないか」と考え、実際に商品を世に出した人たちがいます。
そのひとつが、岩手県釜石市から生まれたkuu-soo BREWINGです。
2021年に登場したkuu-soo BREWINGが選んだのは、自社の醸造所を持たないという方法でした。
全国のブルワリーと組み、商品ごとにノンアルコールビールを開発する。
いわゆる「ファントムブルワリー」です。
考えてみれば、かなり合理的です。
飲料工場を一から持たなくてもいい。商品ごとに、そのスタイルを得意とする醸造所と組むこともできる。
ところが、ブランドを立ち上げようとしたkuu-soo BREWINGは、約20か所の醸造所から製造を断られたといいます。
工場を持たないという方法を選んでも、ノンアルコールビールづくりが簡単になるわけではなかった。
kuu-soo BREWINGが残した公開記録を追ってみます。
kuu-soo BREWINGは、地方の「飲めない」から始まった
kuu-soo BREWINGを運営していたのは、岩手県釜石市の合同会社sofoです。
代表の神脇隼人氏は、大手不動産会社を退職した後、2018年に釜石へ拠点を移し、釜石大観音の仲見世商店街の活性化に取り組んでいました。
ノンアルコールに目を向けたきっかけも、地方での暮らしだったといいます。
東京で生活していたころに比べ、釜石では圧倒的に車を使う。
みんなで飲むなら、誰が運転するのか決めなければならない。決めずに飲めば、運転代行を頼む必要がある。
そんな生活のなかでノンアルコールビールを飲むようになり、「地方発のノンアルには可能性があるのではないか」と考えるようになった。
2021年、kuu-soo BREWINGはスタートします。
掲げたのは、「0%がいろどる未来のくらしをつくる」という考え方でした。
単に「お酒を飲めない人の代用品」を作るのではありません。
- 運転する日
- 本を読む夜
- 音楽や映画を楽しむ時間
- サウナやアクティビティのあと
アルコールがないからこそ入り込める生活の場面に、きちんと選びたくなる飲み物を置こうとしていました。
自分たちでは醸造所を持たない
kuu-soo BREWINGの大きな特徴が、ノンアルコール専門のファントムブルワリーを掲げたことです。
ファントムブルワリーとは、自社の醸造設備を持たず、ほかの醸造所と協業して商品を作るブルワリーを指します。
彼らが目指したのは、単なる一社への製造委託ではありませんでした。
全国各地の醸造所と組み、それぞれ異なるノンアルコールビールを作る。
さらに、各地のブルワリーがノンアル製造へ挑戦することで、日本各地にノンアルコールビールの製造ノウハウが広がっていく。
そんな構想でした。
このモデルには、分かりやすい魅力があります。
自分たちで大規模な醸造設備を持たなくていい。
一つの醸造所、一つの設備、一つのスタイルにも縛られない。
全国の作り手と組める。
少なくとも構想だけを聞けば、小さな会社がノンアルコールビール市場へ参入する方法として、かなり合理的に見えます。
しかし、実際には最初の製造先を見つけるところから苦戦しました。
約20の醸造所に断られた
神脇氏は後のインタビューで、ブランド立ち上げ時に20か所ほどの醸造所から断られたと話しています。
kuu-soo BREWING自身も、最初のクラウドファンディングで経緯をかなり率直に残しています。
構想が固まり、まず近くの醸造所へ問い合わせた。
ところが、「ノンアルはつくれない」と断られることが続き、一時はプロジェクトが頓挫しかけた。
背景として彼らが挙げていたのは、発酵の技術や管理、酵母の選択、追加設備などの問題でした。
神脇氏は別のインタビューで、設備の違いだけでなく、ノンアルコールビールは総じて賞味期限が短く、扱いが難しいとも話しています。
私の想像ですが、酒造免許と清涼飲料水製造業の免許が異なるため、一般的なビールの醸造所ではノンアルコールビールを製造する資格がなかった可能性もあるのではないかと推測しています。これはインタビューで触れられていたわけでなく、私の想像です。
ノンアルコールビールの製法については、下記の記事にて解説しています。
▶ノンアルコールビールはどう作る?「発酵しない・アルコールを抑えて発酵・あとから抜く」3つの製法
ここに、ファントムブルワリーという方法の面白さと難しさが同時に表れています。
自分たちで設備を持つ必要はない。
しかし、特殊な製造が必要なら、その製造に対応できるパートナーを探さなければならない。
設備投資という課題を外部化することはできても、製造そのものの難しさまで消えるわけではありません。
kuu-soo BREWINGは範囲を全国へ広げ、協力してくれるブルワリーを探しました。
そして約1年をかけて、最初の商品を完成させます。
第1弾は、ノンアルの黒ビール「kuusoo BLACK」
2021年に登場した第1弾が、kuusoo BLACKです。
アルコール分0.00%、330ml。
大麦麦芽、小麦麦芽、ホップ、炭酸という、比較的シンプルな原材料構成の黒ビールテイスト飲料でした。
ホップはPerle。IBUは15。
ロースト麦芽によるコクと香ばしさを特徴としていました。
商品設計でも面白いのが、kuu-soo BREWINGがどんなシーンで飲みたいかを、深く設計していたことです。
想定していたのは、
- 読書
- 音楽鑑賞
- 映画
「酩酊」ではなく、作品の世界に「心酔する」。
そんな生活の時間と飲み物を組み合わせようとしていました。
アルコール0.00%であることを、単なる制約ではなく、飲める場面の広さとして捉える。
この考え方は、現在のノンアルコールブランドを見れば珍しくないかもしれません。
しかしkuu-soo BREWINGは、2021年の時点ですでに、かなり明確に「生活のシーンからノンアルを設計する」という発想を打ち出していました。
ところが、飲料は「作れたら終わり」ではない
kuusoo BLACKは、クラウドファンディングのCAMPFIREを使って販売されました。
目標金額は300万円。
120人から1,239,111円が集まり、達成率は41%でした。
All-In方式だったため、目標未達でもプロジェクトは実行されています。
興味深いのは、その300万円の使い道です。
- 開発・製造費として計画されていたのは120万円
- デザイン・撮影費40万円
- パッケージ資材・印刷費25万円
- WEBサイト開設30万円
- 梱包作業費・発送費55万円
クラウドファンディングのページには、物流経路まで明記されています。
「製造 ⇒ 弊社 ⇒ 支援者」です。
つまり商品を作るだけでは終わりません。
- どこかの醸造所で作った瓶を自分たちのところへ運ぶ
- 保管する
- 注文を受ける
- 梱包する
- そして全国へ送る
- 液体は重い
- 瓶なら割れる
- 保管する場所が必要
自分たちで工場を持たなければ、設備投資は軽くできます。
しかし、工場を持たないことと、物流まで軽くなることは別の話です。
kuu-soo BREWINGの資金計画を見ると、飲料事業では製造以外にもかなりのコストと作業が発生することがよく分かります。
ノンアルコールビールのコストを下げるのがなぜ難しいのかは、下記の記事に詳しく掲載しています。
▶ノンアルコールのクラフトビールは、なぜ高い?酒税がないのに高価になる理由
第2弾「Chillax White」は、もっと複雑な商品になった
2022年、第2弾として登場したのがChillax Whiteです。
製造したのは、長野県の南信州ビール株式会社・駒ケ岳醸造所。
こちらもアルコール分0.00%、330mlです。
目指したのは、ベルジャンホワイトスタイル。
ただし原材料を見ると、kuusoo BLACKよりずっと複雑です。
- 麦芽
- ホップ
- 長野県産りんご果汁
- オレンジピール
- コリアンダー
- カルダモン
- エルダーフラワー
- こしょう
- 乳酸
なぜ、ここまで多くの素材を使ったのでしょうか。
kuu-soo BREWING自身が、その理由を残しています。
通常のベルジャンホワイトのように、小麦にオレンジピールとコリアンダーを合わせただけでは、ノンアルにしたときに華やかさが物足りなかった。
そこで王林のりんご果汁を加え、カルダモンとエルダーフラワーで香りを補い、少量のこしょうでキレと刺激を作ったと説明しています。
これは、ノンアルコールビールの商品開発を考えるうえで非常に興味深い記録です。
普通のビールのレシピを用意して、アルコールだけ0.00%にすれば同じ味ができるわけではない。
実際にkuu-soo BREWINGは、ベルジャンホワイトらしい原料構成から出発しながら、それだけでは足りないと判断し、果汁、ハーブ、スパイス、酸を使って味を組み直しています。
ここからはアストローカ側の解釈ですが、これは0.00%の商品開発の難しさをかなり象徴しているように思います。
アルコールをなくすだけではなく、なくなった先で「おいしさをどう作り直すか」を考えなければならない。
kuu-soo BREWINGは、その問題にかなり正面から取り組んでいました。
ノンアルコールビールを美味しくする難しさについては、下記の記事に記載しています。
▶ノンアルコールビールはなぜまずい?「物足りない・甘い・ベタつく・金属っぽい」を研究から分解する
330mlで670円。その価格には、小規模飲料の構造が見える
Chillax Whiteの希望小売価格として記録されているのは、330mlで税込670円です。
大手のノンアルコールビールと比べれば、高価格です。
しかし、ここまでの工程を追うと、単純に「高い商品だった」と片付けるのも違うように思えます。
- 少量の商品を企画する
- 特殊なノンアル製造に対応できる工場を探す
- 共同でレシピを開発する
- 果汁、ハーブ、スパイスなどを使う
- 瓶に詰める
- 商品を移動させる
- 保管する
- 販売する
- 梱包する
- 発送する
- ブランドやWEBサイトも運営する
小規模な飲料ブランドが一本の商品を販売するまでには、かなり多くの工程があります。
さらにkuu-soo BREWINGは、飲食店、サウナ・温泉施設、キャンプ・アウトドア施設向けの業務用販売にも挑戦していました。
第2回クラウドファンディングでは、Chillax White 48本を22,222円、送料込みで提供する業務用プランも設定しています。
これは通常の卸価格そのものではなく、クラウドファンディング限定の条件です。
ただし、消費者へ直接売るだけでなく、その先に飲食店や施設という流通を作ろうとしていたことは分かります。
小さなノンアルブランドにとって、
- 作れる価格
- 消費者が買える価格
- 流通先が扱える価格
この三つを同時に成立させる必要があります。
簡単な問題ではありません。
賞味期限は、在庫に「時間制限」があるということ
さらに、Chillax Whiteのクラウドファンディングには賞味期限も記録されています。
商品の配送予定は2022年2月。
記載された賞味期限は2022年5月でした。
製造日が公開されていないため、「賞味期限が3か月の商品だった」と断定することはできません。
しかし少なくとも、購入者へ届く予定時点から見れば、残された期間は数か月です。
神脇氏自身が、ノンアルは総じて賞味期限が短く、扱いが難しいと話していたこととも整合します。
これは飲料事業では重い問題です。
- たくさん作れば、一般に1本あたりの製造効率は上げやすくなる
- しかし、売り切らなければならない在庫も増える
- 少なく作れば、在庫リスクを抑えやすい
- しかし、小ロットになればコスト面では不利になりやすい
- 食品には賞味期限がある
- 在庫には、時間制限がある
「たくさん作れば安くなる」と「売り切れる量だけ作りたい」が、きれいには両立しません。
kuu-soo BREWINGの公開記録には、小さな飲料メーカーが直面するこの難しさも見えています。
kuu-soo BREWINGは、商品だけを作ろうとしていたわけではない
もうひとつ、kuu-soo BREWINGを興味深い存在にしているのが、商品開発と同時にメディアまで立ち上げていたことです。
2021年10月、ノンアルライフスタイルメディア「のんあるのあるくらし」を公開しました。
自社商品の広告だけを載せるメディアではありません。
- ほかのノンアルコール飲料
- 食事
- グラス
- 映画や音楽
- 旅行
- サウナ
- キャンプ
ノンアルコールが入り込める生活そのものを発信しようとしていました。
その理由について、神脇氏はかなり明確に語っています。
自社の商品が売れて、自社だけが儲かっても、ノンアルの市場や文化は広がらない。
だからほかの醸造所とも組むし、情報も発信する。
商品を売る会社であると同時に、まだ小さな市場そのものを育てようとしていたのです。
ASTROCA Journalを運営する私たちから見ると、これは特に興味深いところです。
私たちがいま考えていることの一部にも、すでに先人がいました。
一方で、この戦略は仕事も増やします。
- 製造先を探す
- 商品を開発する
- 在庫を管理する
- 販売する
- 発送する
- 営業する
- それと並行して、記事を企画し、作り、メディアを更新する。
新しい市場では、ときに商品を作る会社が、「なぜこの商品が必要なのか」を社会へ説明する会社まで兼ねなければならない。
kuu-soo BREWINGは、その両方に挑戦していました。
そして、公開情報は2022年ごろから少なくなっていく
では、kuu-soo BREWINGは現在どうなっているのでしょうか。
ここは、分からないことを分からないままにしておく必要があります。
2026年8月現在、今回確認した範囲では、「kuu-soo BREWINGを終了します」「ノンアル事業から撤退します」といった公式発表は確認できませんでした。
一方で、かつて使われていた kuusoobrewing.com は、現在ブランド公式サイトとしては稼働しておらず、期限切れドメインとして販売されています。
「のんあるのあるくらし」は現在もページを確認できますが、公開されている記事は2022年ごろで更新が止まっています。
また、今回調査した範囲では、Chillax White以降の新商品や、現在の商品販売活動を確認できませんでした。
だから、「kuu-soo BREWINGは失敗した」とは書けません。
なぜ現在のような状態になったのか、公表された理由がないからです。
- 売上が理由だったのか。
- 製造上の理由だったのか。
- 別事業へ力を移したのか。
- それとも、まったく別の事情だったのか。
私たちには分かりません。
なお、運営元だった合同会社sofoと、kuu-soo BREWINGというブランドの状況も同一視するべきではありません。
ブランドサイトが動いていないからといって、法人そのものがなくなったことを意味するわけではありません。
だからこそ、「失敗例」としてではなく、先人の記録として読みたい
kuu-soo BREWINGの活動が現在確認しにくくなっている理由は分かりません。
しかし、その理由を推測しなくても、残された公開記録にはかなり多くの情報があります。
彼らは、ノンアルコールビール事業に対して、かなり合理的な方法を考えていました。
- 設備を自分たちで持たない。
- 全国のブルワリーと組む。
- 一つのビアスタイルに固定しない。
- 食事だけでなく、生活のシーンから商品を考える。
- クラウドファンディングで初期需要を集める。
- D2Cだけでなく、飲食店や施設へも売る。
- さらにメディアを作り、市場そのものを育てようとする。
少なくとも公開記録を読む限り、思いつきで始めた事業には見えません。
むしろ、「小さな会社がノンアルコールビールへ参入するなら、どうすればいいか」をかなり真剣に考えた形跡があります。
それでも、実際に動き始めると、
- 約20の醸造所から製造を断られる。
- 製造先が見つかっても、商品開発が始まる。
- 工場を持たなくても、物流は残る。
- 小ロット商品には価格の問題がある。
- 在庫には賞味期限がある。
- 売るだけでなく、市場そのものを説明する仕事まで必要になる。
ここに、kuu-soo BREWINGの記録を今あらためて読む意味があります。
工場を持たないという賢い方法を選んでも、ノンアルコールビール事業の難しさがすべて消えるわけではない。
一つの壁を避けると、別の場所に次の壁が現れる。
それはkuu-soo BREWINGがなぜ現在の状態になったのかという話ではありません。
あくまで、彼ら自身が公開した事業の過程から見える、ノンアルコールビールづくりの構造の話です。
私たちより先に、挑んだ人たちがいる
ASTROCAも、0.00%のクラフトビールテイスト飲料を作ろうとしています。
だからこそ、kuu-soo BREWINGを「かつて存在したブランド」とだけ紹介するのは、少し違うように感じます。
2021年。
現在よりもさらにクラフト系ノンアルコールビールの選択肢が少なかった日本で、
自社醸造所を持たず、全国のブルワリーと組み、0.00%の商品を作り、クラウドファンディングで販売し、飲食店や施設への展開も考え、ノンアル専門メディアまで立ち上げた人たちがいました。
私たちがこれから向き合う問題のいくつかには、すでに先に向き合った人がいる。
だから、その記録を残しておきたいと思います。
日本で、小さな会社がノンアルコールビールを作り、届けることは、なぜこれほど難しいのか。
kuu-soo BREWINGの挑戦は、その問いを考えるための貴重な記録を残しています。
主な参考資料
-
kuu-soo BREWING「ノンアルクラフトビールPJ 第1弾|0%がいろどる未来のくらしを創りたい!」CAMPFIRE、2021年
-
合同会社sofo「kuusoo BREWING 第1弾商品 kuusoo BLACK」プレスリリース、2021年
-
神脇隼人「日本初*ノンアルファントムブルワリーkuusooBREWING」note、2021年
-
MARUKU「地方発、ノンアルの新時代へ。『kuu-soo BREWING』神脇隼人氏に訊く」
-
kuu-soo BREWING「ノンアルファントムブルワリー第2弾:スパイス&ハーブ入りノンアルクラフト白ビール」CAMPFIRE、2022年
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合同会社sofo「kuusooBREWING 第2弾商品 Chillax White」プレスリリース、2022年
-
ノンアルライフスタイルメディア「のんあるのあるくらし」